「スマートデータ」を活用する「スマートシティ」とは
【Panorama Software BI Blog より】
いま世界中で毎日 7 .5*セクスティリオン(*10の21乗)ギガバイトものデータが生成され、生成されるデータ量が急増しています。世界のデータのうちおよそ90% はこの2年間以内に生成されたとも言われ、IOT(物のインターネット)が現実のことになり、2020年までにおよそ300から530億の物がインターネットで接続されると言われています。これは、地中や海底に埋まるセンサーからウェアラブルデバイス、自動車、犬の首輪まであらゆるものがネットにつながることによって、膨大な数のセンサーが膨大なデータを生成する世の中になることを意味します。これらのデータを適切に処理し分析することができれば、洞察を発見する可能性は無限大になるでしょう。
「スマートシティ」のコンセプトとは?
このような膨大なデータとデータから生まれる洞察はすべて、ハリウッド映画にでてくるような「スマートシティ」というコンセプトにつながります。次の段階では、これらの洞察をすべて取り入れ、活用して都市効率をさらに改善していくことが理にかなっているようです。これらの都市は「スマートデータ」と完全に一体化して計画され、建設されるでしょう。「スマートシティ」は、資源、人口、群衆整理、混雑、エネルギーの算出と消費などの活用効率を大幅に改善させるでしょう。複合都市はすでに数百万ものセンサーを設置し、さらにデータを収集するために低コストのセンサーを増設します。こうして多くの都市は、ますます「スマート」化していくでしょう。スマートデータは「スマートシティ」を支える基盤となります。人の行動パターンや都市がどのように機能するかを分析することが不可欠になります。
スマートシティの最大の利点のひとつに、混雑時に市民に対するサービスを確保できるという点があります。そのためにはスマートデータを分析し、混雑が発生する理由と時期を把握する必要があります。都市部の人口は世界中で増加し続けています。大規模な混雑が発生し、資源不足のために大衆のニーズに十分対応できないという出来事がしばしば発生します。データ活用によって都市は市民に適切なサービスを提供し、安全を確保することができるようになります。
スマートシティのもうひとつの利点は交通渋滞問題の解消です。スマートデータの活用で公共交通や個人の車の流れを改善することができ ます。この取り組みのもっともよい例はサイドウォーク研究所 (Sidewalk Labs) が開発した「フロー」 (Flow) というアプリケーションです。他の多くの企業とともにFlowを開発した担当者は、都市の交通渋滞のほとんどは、駐車する場所を探しながら運転する人が原因であると考えています。そこで、もっとも近くの駐車場をドライバーに案内するアプリケーションを開発しました。このアプリはスマートフォンのセンサー、グーグルマップ、ストリートビューから取得したデータと駐車場のメーターに取り付ける必要のあるセンサーを組み合わせて利用しています。
また他にも「ムービット (Moovit) 」というアプリは、公共交通のデータに接続して、バスや電車の運行時刻表を見るユーザーを支援するだけでなく、利用できるもっとも効率のよい目的地までの行き方をユーザーに提供します。またウェイズ (Waze) というアプリは混雑回避のためユーザーに別のルートを案内します。これらのアプリはすべてユーザーのスマートフォンのデータと位置情報を利用しています。こうした試みはまだ始まったばかりですが、目的は交通の効率をもっと改善することです。
またもうひとつ無視できない利点があります。資源とエネルギー消費の最適化です。いま、より効率よく資源の配分を行わなければならないという緊急かつ必須のニーズがあります。資源には限りがあり、都市人口は増大を続けるため すべての住民に足りる資源をまかなうことは近年ますます難しくなってきています。都市はエネルギー消費を削減するために、システムに相互接続する新しいLEDに、街灯を置き換える計画を進めています。このLEDは電球の状態について常に情報を送信します。 行政は機能していない電球があればすぐに特定し、ほぼ即座に修理することができます。このような検討する価値のあるエネルギー節約のために数多くの取り組みが行われています。
都市が「スマート化」されてあらゆることが自動化されると、私たちの仕事にどのような影響が及ぶでしょうか。
スマートシティの導入のためには多くの変更を行う必要があります。中でも大きな変更は人間の活動やタスクがAI(人工知能)に置き換わる可能性があるということでしょう。これは大変な議論を呼ぶと思われます。自動化は最近の傾向で、バスや電車の運転を自動化するプロジェクトが進んでいます。では、自動化が実現されると、バスの運転手という職業はどうなるでしょうか。ごみ箱が満杯になったときに市のごみ収集業者に通知することができるスマートゴミ箱が開発されています。こうするとゴミ収集車は一定の回収ルートを設定する必要がなくなるかわりに、必要な場合だけ出動すればよいことになります。これによって時間と消費燃料が節約され、回収業務にかかる作業時間の削減にもつながります。
また、イギリスのリーズ大学 (Leeds University) が主導するプロジェクトでは、インフラの問題を特定して修理できるロボット作業者を製作しています。道路の陥没穴をスピーディかつ簡明に修理することができるもの、下水道システムでどんな問題が発生してもすぐに修理できるものなどが開発されています。
ところが再び問題です。これらの作業を行う市職員はどうなるのでしょうか。アメリカのフォレスターリサーチ (Forrester) によると、アメリカでは2025年までにおよそ910万人の職業が自動化されると予測しています。しかしこれはもっとも楽観的なシナリオのひとつで、タスクは仕事とは別のものであり、ロボットには退屈なタスクをさせるように意図しているのであって、仕事全体を引き受けさせるのではないという事実に基づいています。
さらに楽観的な見方では、ロボットやAIは、人間がより重要なことに集中するために、退屈な作業を自動化するために使うべきであるという意見もあります。もっとも現実に近い方法は、人間の技能や考えを自動化システムと組み合わせる、ということでしょう。
私たちは特殊な見方をしているわけではありません。データを活用し、データの潜在能力を活用して人々の生活を便利にし、都市のしくみを「スマート」にできるという事実を、良しとして受け入れています。しかし、完全な自動化、特に人のタスクを完全に自動化するとなると話は別です。実際どの程度自動化が可能かということもまだ十分にわかっていません。
人は人生を通じてのさまざまな経験を重ねていますが、ロボットにはそのような経験はありません。ですから今後もう少し議論の余地を残して、皆さんからの意見を伺いたいと思います。
スマートシティでは、個人情報を完全に放棄するのでしょうか?データセキュリティを維持する方法は?
「スマートシティ」はとても素晴らしいことのように聞こえますが、データのプライバシー保護の観点からみるとリスクを伴うことでもあります。ここで、基本的な質問として「誰がデータをコントロールするのか、意図する目的以外に使用される危険性はないのか、」といったことがでてきます。
政府は人々の利益と都市の改善のために、民間企業に政府の代行を委託できるでしょうか。ただ企業の利益を増やすためだけではなく、です。スマートシティの出現にともなう多大な機会を利用する民間企業に、何も問題はありません。しかし最終的な目標は人の助けになるということでなければなりません。そうでなければ、長期的に見ればスマートシティの考え方全体が失敗することになるでしょう。
IT技術を提供する企業は、独占市場をつくるという潜在的な危険性があります。技術は常に変化を続けますので、より革新的な業者を選ぶ選択肢が常に利用できるということが大切だからです。行政機関が契約を行うときは慎重に行う必要があります。 商業的にみると、民間と行政機関は市民から得る個人情報を必ずしも共有する必要はありません。ところがスマートシティでは、民間と行政機関とで自由にデータを共有する必要があります。「このデータは不適切に使用されたり、隠された意図をもって民間企業に転売されることはない。」などのことが、普通の人にわかるはずがありません。そうしたことを防止するためには、データはオープンでなくてはなりませんし、公共サービスを通じて生成されたデータは公開の状態を維持する必要があります。そのためには市民の参加が必要です。オープンソースデータは、革新的なソリューションを開発し、よりよいサービスを提供できる新興企業によって活用されることが可能になります。
ITと自動化を利用してどんな社会的問題を解決したいのかということに、注目することはよい考えです。都市はスマートデータとITを活用するべきであるのはもちろんですが、自動化そのものが目的ではなく、社会的問題の解決こそ目的であるべきです。そうしてこそ本来のスマートシティの正しいあり方を指向することになるでしょう。